今世紀の企業法務

備忘録と思考実験

仕向地と需要者

キャッチオール規制は「仕向地」がグループAであれば適用されない。

キャッチオール規制が適用されないので、需要者の確認も不要となる(なお、経産省によると、需要者とは「貨物を費消し、又は加工する者」を意味するとのことである。)。

なので、まずは、「仕向地」がグループAかどうかを確認する必要がある。グループAであれば需要者の情報は不要なので楽チンなはずである。


ところが、運用通達によれば、「仕向地」とは「貨物の最終陸揚港の属する国をいう。 ただし、当該貨物が当該国以外の国で消費又は加工されることが明らかな場合は、消費又は加工される国をいい、加工される国と消費される国とが異なることが明らかな場合は、消費される国をいう。」とされているらしい。

「明らかな場合」がどのような場合かの基準等は示されていないが、もし積極的な確認が必要なのであれば、「仕向地」の確認のために「貨物が消費又は加工される国」を確認する必要がある。

「貨物を費消し、又は加工する者」が需要者なのだから、「貨物が消費又は加工される国」を確認するとすれば、その消費又は加工を行う主体は需要者ということになる。

なので、結局、「仕向地」の確認のためには、「需要者」が誰であるかの確認は必要ないものの、「需要者が当該貨物を消費又は加工する国」は確認する必要があることになる。

しかし、「仕向地」の確認のために「需要者が誰であるかは教えていただかなくても構いませんので、需要者が消費又は加工する国がどこかだけ教えてください」と聞くのは現実的ではなさそう。聞いた結果その国がグループA以外の国だったときは需要者が誰であるかの情報も聞かなければならなくなるのだから、そうであれば最初から「需要者はどこの誰ですか」と聞いた方が良いということになりそうである。

しかしそれでは、そもそもの「キャッチオール規制は「仕向地」がグループAであれば適用されないので、需要者の確認も不要となる。」ということの意味がほとんどなくなる。仕向地がグループAであれば需要者の確認は不要とは言っても、仕向地がどこであるかの確定のために事実上需要者の確認が必要なのであれば、いずれにしても常に需要者の確認は必要ってことになるではないか。


他方で、仕向地が最終陸揚港の属する国以外の国となり得るのは当該貨物が当該国以外の国で消費又は加工されることが「明らかな場合」だけなのであるから、積極的な確認は不要である、という立場もありうる。この立場では、最終陸揚港の属する国がグループAであれば、たまたま何らかの事情で当該貨物が当該国以外の国で消費又は加工されることが判明しているのでない限り、需要者の確認は不要になる。

しかし、(少し古いが)経産省の資料(https://www.meti.go.jp/policy/anpo/compliance_programs_pdf/yushutukanritoha.pdf)でも、「初歩的な誤りの例」として「仕向地の解釈を間違えていませんか?」「仕向地とは、最終的に消費、加工が行われる国です。」「A国の販売店を通じたB国への輸出は、B国向けの輸出許可が必要です。」などと書かれている。このように初歩的な誤りとして注意喚起されている事項について、「積極的な確認は不要」と言ってしまって良いのだろうか。

また、場面は異なるが、キャッチオール規制の客観要件は通常の商慣習の範囲で入手した情報によって確認すれば足りるとされている。明らかガイドラインでも「通常の商慣習の範囲で取引相手等から入手した文書その他の情報によって確認を行うこととし」と書かれている。仕向地の確認においても「通常の商慣習の範囲で取引相手等から入手した文書その他の情報」によって確認を行えば足りるといえそうな気がする(キャッチオール規制の客観要件としての需要者の確認ですら通常の商慣習の範囲で取引相手等から入手した文書その他の情報によって確認を行えば足りるのだから、その前段階の仕向地の判断における「当該貨物が当該国以外の国で消費又は加工されることが明らかな場合」に当たるか否かの判断のためにそれ以上の情報入手を求めるのはおかしい、と言えそうな気がする。)。

ただし、「通常の商慣習の範囲で取引相手等から入手した文書その他の情報」というものもまたよく分からない。経産省の上記の研修資料なども踏まえると、常に需要者の確認をするのは商慣習上通常のことだ、と言われたら否定するのは難しいかもしれない。大川原化工事件のように、検察がやると決めたら、「それは商慣習上通常だ」でゴリ押しして起訴してくる可能性は否定できない。

さらに、仮に「積極的な確認は不要である。ただし、たまたま何らかの事情で当該貨物が当該国以外の国で消費又は加工されることが判明した場合は例外的対応が必要。」という社内ルールを作ったところで、担当者はただし書きのことなど覚えているはずがないので、当該国以外の国で消費又は加工されることが分かっていたのに担当者が例外的対応の必要性を認識せずにそのまま処理してしまった、という事案が遅かれ早かれ発生するのはほぼ確実である。

そうすると、積極的な確認は不要である、という立場での運用もしにくい。


通常の商慣習がどのようなものかは不明確であるが、契約は守られるのが通常の商慣習だと言えるだろうから、少なくとも、契約の相手方が契約を守るであろうと信頼するのは通常の商慣習だと言えるのではないだろうか。なので、契約書に「グループA以外の国で消費又は加工される場合は申し出なければならない」という条項があったとして、その申し出がなかったのでグループA 以外の国で消費又は加工されることはない(少なくとも「明らか」ではない)と判断したのであれば、さすがに「通常の商慣習に照らせば相手方の契約違反を疑ってもっと情報を入手すべきであった」みたいなことは検察ですら言わないのではないだろうか。


というわけで、最終陸揚港がグループAで、かつ、購入者との間で「グループA以外の国で消費又は加工される場合は申し出なければならない」という条項があるのであれば、特段の申し出がない限り、「仕向地」はグループAであり、需要者の情報は不要、と考えて良いのではないか。