今世紀の企業法務

備忘録と思考実験

「需要者」の意味

外為法等遵守基準を定める省令に、リスト規制品の輸出を業として行う者は「需要者」を確認せよ、と出てきます。

輸出者等遵守基準を定める省令

第一条 外国為替及び外国貿易法(以下「法」という。)第五十五条の十第一項の輸出者等遵守基準は、次のとおりとする。

一 (略)

二 特定重要貨物等輸出者等...が遵守すべき基準

イ (略)

ロ (略)

ハ (略)

ニ 取引によって提供し、又は輸出をしようとする特定重要貨物等の用途...及び需要者等(技術取引の相手方若しくは技術を利用する者若しくは貨物の輸入者若しくは需要者又はこれらの代理人をいう。以下同じ。)を確認する手続を定め、当該手続に従って用途及び需要者等の確認を行うこと。また、特定重要貨物等の用途及び技術を利用する者又は貨物の需要者の確認の適正な実施に当たり必要となる情報を、技術を利用する者又は貨物の需要者以外の者から入手する場合には、当該情報の信頼性を高めるための手続を定め、当該手続に従って用途及び技術を利用する者又は貨物の需要者の確認を行うこと。

この「需要者」の意味について、ある貨物が部品として他の装置等に組み込まれ、それを別の者が使用する場合、その貨物を組み込む者が需要者なのか、それともその装置等を使用する者が需要者なのか、よく混乱が生じます。

経産省は、「需要者」とは「貨物を費消し、又は加工する者」を指すとしています。しかし、貨物を部品として他の装置等に組み込む行為が(「加工」には該当しないであろうが)「費消」に該当するかどうかは、必ずしも明らかではありません。

 

これに関連して、経産省の安全保障貿易管理ホームページのQ&A「全貨物共通」「5.事前同意手続」のQ14で、以下のように述べられています。

安全保障貿易管理**Export Control*Q&A:7.全貨物共通事項

Q14:質問 2017/6/1
 
 既に輸出済みの本体機の交換部品として使用するための部品が該当品であるため、輸出許可を取得して輸出しました。当該部品は現在本体機に組み込まれて、使用されています。このたび、本体機が他国に売却されることになりました。この場合、輸出許可取得時の誓約書にしたがって、本体機に組み込まれた部品の再輸出の事前同意を得る必要があるのでしょうか。


▲A14:回答
 
 原則、部品として別の装置に組み込まれるケースは費消にはあたりません(つまり、許可を得て輸出された当該部品は、引き続き『輸出許可対象の管理貨物』である点、ご留意下さい)。 したがいまして、本体機に組み込まれた部品については、輸出許可取得時の誓約書にしたがって再輸出の事前同意を得る対象となります。また、該当貨物が、輸出後に別の装置に部品として組み込まれる場合に、当該部品価額が本体価額の10%未満であったとしても、それをもってただちに当該該当貨物が非該当品化したとはみなされません。判断に迷われる場合は、安全保障貿易審査課までお問い合わせ下さい。

(注)上記の例外として、3項品のポンプとバルブが半導体製造装置に組み込まれた場合については、半導体製造装置に正当に組み込まれた段階で費消されたと認められるため、再輸出等の事前同意を得る必要はありません(Q&Aの個別貨物「9.弁、ポンプ等(別表第1の3項(2)、3の2項(2)等))<添付書類関係>」のQ3を参照)。 なお、半導体製造装置に組み込まれる場合ではなく、例えば半導体製造に用いられる装置に薬液を供給する配管に取り付けられ、当該薬液の流量制御のために使用される場合は上記の例外は当てはまらず、誓約書に基づく再輸出の際の事前同意が必要となりますのでご注意ください。

このQ14の回答の考え方によると、

  1. 原則として、貨物を部品として別の装置に組み込む行為は、「費消」には該当しない。
  2. ただし、1.の例外として、ポンプとバルブを半導体製造装置に正当に組み込む行為は、「費消」に該当する。

ということになりそうです。

 

上記2.の場合以外には例外はないのかどうかは明らかではありません。ポンプとバルブに限る意味はあるのか、半導体製造装置に限る意味はあるのか、よく分かりません。

輸出者等遵守基準を定める省令の改正案に対するCISTECのパブリックコメントに対し、経済産業省は、以下のとおり回答しています。

CISTEC関係委員会提出のパブリックコメントに対する経済産業省の回答結果

226

2-3【意見内容】

製品を装置等に組込む者:Aと、組込んだ装置等を使用する者:Bが別の法人の場合、商習慣上は製品を購入するのはAであり輸出者はAから情報を得ることが通例ですが、このAは輸出者等遵守基準の第一条第二号ニの「需要者」の理解で正しいでしょうか?その場合、Bは何に相当するのでしょうか?それとも「需要者」はBであって、Aは「貨物の需要者以外の者」となるのでしょうか?AもBも広義では「需要者」である場合、AとBを区別できるよう表記の見直しをお願いします。

(以下略)

 

経済産業省回答

本省令における需要者とは「貨物を費消し、又は加工する者」を指しますが、「貨物を費消せず、又は加工しない者」に輸出等を行う場合には「当該貨物等を使用する者」が需要者となります。御指摘のような場合、個別の輸出等の状況にもよるかと思いますが、製品を装置等に組込む者が「貨物を費消し、又は加工する者」であるとすると、基本的には A が需要者となります。一方、取引の時点で、通常の商習慣で得られる範囲において、「費消し、又は加工する者」が費消し、加工した後の貨物等を使用する者を把握した場合においては、併せて当該取引先の確認を行うことは需要者等の確認の中で求められます。
なお、審査実務においては、貨物等の性質等も踏まえ、輸出許可基準に基づき、必要に応じて、「貨物を費消し、又は加工する者」に加えて、その取引先や貨物等を使用する者の確認を求める場合があります。 

この経産省の回答文は(意味を成しているのかどうかも含めて)難解であるが、上記太字部分からすると、ポンプ・バルブを半導体製造装置に組み込む場合以外であっても、貨物を装置等に組み込む行為が「費消」に該当することがあり得ることを前提としているようにも読めそうな気がします。しかし、具体的にどのような行為がこれに該当するのかは全く明らかではありません。

当面は、ポンプとバルブを半導体製造装置に正当に組み込む行為でない限り、貨物を部品として別の装置に組み込む行為は「費消」には該当しない、として扱うほかなさそうです。